登場人物にリアリティを持たせるには?【小説の作り方】
目次

読者が「そこにいる」と感じるリアリティとは #
小説の面白さは、キャラクターの魅力が8割を占めると言われます。しかし、「リアルなキャラクター」とは、単に現実の人間を写すことではありません。むしろ、人間特有の「矛盾」と「葛藤」を内包し、読者に「本当にどこかで生きているようだ」と感じさせる説得力こそが、小説におけるリアリティです。
本記事では、読者を深く引き込むキャラクターを造形するために、外見や経歴といった表面的な情報だけでなく、内面的な矛盾や情報の裏付けを設計する方法を、プロの視点から解説します。
I. 外的情報ではない、内面設計の解像度を上げる #
キャラクターの行動に一貫性を持たせつつ、人間的な深みを与えるには、外から見える情報以上に、その根幹となる内面的な動機を緻密に設計する必要があります。
1. 誰もが持つ「隠された矛盾」を設定する #
完璧な人間は、小説の中では退屈です。キャラクターを真にリアルにするのは、彼らが抱える「矛盾」です。
- 表向きと裏側の対比: 例えば、職場でリーダーシップを発揮する人物が、自宅では極度の収集癖を持っているなど、社会的な役割と個人的な性質を対比させてみましょう。
- 小さな弱点やトラウマ: 勇敢な主人公が特定の動物を恐れる、強気なヒロインが実は褒められるのが苦手など、物語の核に関係ない小さな「弱点」を設定することで、一気に親近感と生々しさが増します。
「私は、走り続けるのか」の千尋は見た目は美しくモデルのようで、口数は少なく作品内でも主要メンバー以外からは近寄りがたい人物像です。仕事もテキパキとこなしていきます。完璧な人間に見えてしまい、「実際そんな人いる?」と言われそうな設定ですが、実は家では唯一の同居人の母を介護しており、苦労の絶えない面が垣間見えたり、本当はお笑い好きで夜に1人でこっそりお笑い番組を鑑賞して楽しんでいるお茶目な面もあります。こういった裏側を見せることで「いない」と思われる人物に親しみを持たせることも一つのテクニックになります。
2. 行動を決定づける「無意識の動機」を設定する #
人物の行動が、その場しのぎの感情ではなく、過去の経験や、彼自身も気づいていない深層心理に根差していると、読者はその行動に納得感を得ます。
- 無意識の欲求: キャラクターがなぜその目標を追いかけるのか、その背後にある「愛されたい」「認められたい」といった根源的な欲求を定義します。
- 「譲れない一線」の作り方: 普段は温厚な人物が、特定のテーマ(例:家族、倫理観)に触れられると豹変する「トリガー」を用意することで、キャラクターの人間性が際立ちます。
3. 【実践】スプレッドシート活用!水面下9割の「アイスバーグ理論」で解像度を上げる #
小説の表現上、読者に伝えるのは人物設定の1割で十分です。しかし、その1割に説得力を持たせるために、作者は残りの9割の裏設定を知っておく必要があります。
- 裏設定の例: 家族構成の詳細、過去の失敗とそこから得た教訓、他人には言えない秘密、詳細な食の好みや嫌いなもの。
- 効果: これらの情報は物語で使われなくても、あなたの頭の中でキャラクターが生きているため、書かれるセリフや動作の一つひとつに「重み」が宿ります。
筆者も登場人物のメモをたくさんとっています。特に家族構成は表に出さなくてもかなり詳細に決めておいています。こうすることで、自分が書くキャラに対しての愛着もどんどんわいていき、執筆のモチベーションにもつながります。
例えば、このようなテンプレートをスプレッドシートに作り、執筆前に必ず確認します。読者の方も、まずは主要人物一人から、この表を使って情報を整理してみましょう。
| 名前 | |
|---|---|
| ふりがな | |
| ニックネーム | |
| 画像 | ※イメージに近い有名人やキャラクターなどで可 |
| 誕生日 | |
| 血液型 | |
| 性格 | |
| 特技 | |
| ファッション | |
| 身長 | |
| 体重 | |
| 家族構成 |
| 好き | 嫌い | |
|---|---|---|
| 食べ物 | ||
| 色 | ||
| 動物 | ||
| 人のタイプ | ||
| こと |
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II. 徹底した情報収集とモデル化の手法 #
リアリティの根拠となる情報は、現実の世界から集める必要があります。そのための効果的なリサーチ手法を紹介します。
1. 身近な人物やSNSを「資料の宝庫」として活用する #
モデルを設定する際は、一人の人間を丸ごとコピーするのではなく、「話し方」「笑い方」「趣味」といったパーツを複数の人物から抽出して組み合わせるのが鉄則です。
- SNSの活用: 匿名性の高いSNSの投稿は、建前ではない人間の本音や日常のディテールが詰まった宝庫です。特定の趣味を持つアカウントや、ターゲット年齢層の「口調」を観察しましょう。
2. 設定の裏付けとなる「環境と職業」のディテール #
職業や環境は、人物の性格や行動パターンを形作る最大の要因です。
- 具体的な影響の記述: 単に「医者」ではなく、「地域医療に携わる40代の開業医」と設定することで、その人物の抱える疲労感、地元住民への気遣い、古びた病院の匂いなど、描写できるディテールが格段に増えます。
- 専門用語の活用: 専門用語を少しだけ、ごく自然に使わせることで、その人物の職業に対するリアリティと習熟度を演出できます。
3. 名前でリアリティを演出!時代と地域の傾向を取り入れる #
名前一つで、読者はその人物のイメージを瞬時に形成します。
- 統計的な裏付け: 名字ランキングや、その人物の生まれ年の名前ランキングを参照することで、「その時代にその名前を持つ」という社会的なリアリティを担保できます。
- イメージのコントロール: 名前が持つ「明るい」「古風」といったイメージと、実際のキャラクターの性格をあえて一致させたり、反対にギャップを作ったりすることで、読者の興味をコントロールできます。
「私は、走り続けるのか」の主人公6人の名前は彼女たちが生まれた当時の女の子の名前ランキングのトップ10にランクインしているものです。「茜、彩、里奈、美穂、麻衣、千尋」これだけでも時代がわかり、同年代の読者にとっては身近に感じられる名前です。
III. 読者を共感させる「生々しい」描写テクニック #
設定が完璧でも、それを読者に伝える文章表現が稚拙ではリアリティは伝わりません。読者の五感と感情に訴えかける描写テクニックを磨きましょう。
1. 感情を説明せず「沈黙」や「間」で表現する技術 #
「彼は悲しかった」「彼女は怒った」と説明するだけでは、読者は物語の外に立たされたままです。
- 動作の描写: 感情を直接書かず、「言葉に詰まったまま、コーヒーカップの縁を指でなぞった」「背中が急に丸くなり、照明の影が濃くなった」など、具体的な動作や体の変化を通じて感情を滲ませましょう。
- 【例】まだ朝早いせいなのか元々なのかは不明だが、駅舎を出ても人が見当たらないように見える。振り返ると、直哉は見慣れた駅のイメージとは違う、小屋のようなものから自分たちが出てきたことを認識した。ついに知らない世界にたどり着いてしまったことに気付いて、初めて不安のような後ろめたさを感じとった。(「記憶のまち」より)
解説: 主人公の心の中の不安を直接描写する代わりに、外部の異常な情景(小屋のような駅舎)と結びつけることで、読者はその情景を通じて主人公の「不安」を追体験し、より生々しいリアリティを感じます。
2. 表情や感情を五感情報として伝える #
人物を表現する際は、視覚情報だけでなく、他の感覚も動員しましょう。
- 五感の活用: 「冷たい金属のような声」「汗と香水の混じった匂い」「革靴が廊下に響かせる一定のリズム」など、音、匂い、触感を表現に加えることで、読者はその人物を多面的に、生々しく感じ取ります。
- 【例】毎日たくさんの教科書やノートを詰め込み、もう6年目の付き合いとなったボロボロの黒いランドセルの中も今日はほとんど空で、直哉はいつもより軽い足取りで学校へ向かっていた。(「記憶のまち」より)
解説: 夏休み前日、「ランドセルはほとんど空」という五感情報と「いつもより軽い足取り」という動作を通じて、解放感という内面の感情を読者に想像させる技術です。
3. 作者自身が体験した「感情のディテール」を注ぎ込む #
あなたが最もリアリティのある描写を書けるのは、あなた自身が体験した感情です。
- 感情の解像度: 「悲しい」という感情を「胸の奥が空洞になるような感覚」「手のひらに汗がにじむ焦燥感」など、体験に基づいた独自の言葉で表現し直しましょう。このディテールこそが、あなたの小説の独自性であり、価値となります。
- 【例】洗面所の電気を付けると、鏡に見たくもない疲れた表情がうつった。鏡は現実を突きつけてくる。30代に入ってから、急に年を取る感覚が目でわかるようになってきた。かと思えば顔つきはまだまだ未熟にも感じる。年を取った分に見合うような成長をできているんだろうか。(「リグレットゲージ」より)
解説: 「鏡に映る自分を見る」という日常的な行動に、「年を取った感覚と未熟さのギャップ」という作者固有の複雑な感情のディテールを注ぎ込むことで、読者は深く共感し、キャラクターに生々しさを感じます。
まとめ:読者の心に残るキャラクターを作るために #
キャラクター造形とは、「設定」と「描写」、そして「作者の知識と経験」を総動員する作業です。
外見や経歴の設計はもちろん大切ですが、読者の心を掴むのは、その根底にある「矛盾」や「葛藤」といった人間の生々しさです。この「リアリティがある人物造形」の技術を習得し、あなたの小説に活かしてください。
この人物たちが動き出す、次のステップは「時系列の整理」です。次回の記事では、複雑になりがちな物語の時系列を整理し、読者を混乱させずに展開する方法について解説します。