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「要素掛け算」をしたら意外なジャンルの小説に化けたので解説する【ネタ切れ対策】

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誰もが持っている「着眼点」にあるポテンシャル #

私が執筆したミステリー小説「私は、走り続けるのか」は、元々ミステリーものとして書こうと思った物語ではありませんでした。というのも友達数人と久しぶりにオンラインで話をした後に「もうみんなそれぞれの仕事とか家族持ってるんだな〜」って、ただなんとなく思ったことが執筆の発端で、全くミステリー要素も持っていなかったからです。

このように、私の作品の種は誰でも持っている「着眼点」による気付きです。むしろ着眼点を持っているとも言い難いほどの当たり前のことが種です。ただ、私は、そこから思考プロセスをずっと繰り返していき、小説にしています。だから私は物語のアイディアがなかなか途切れず、ずっと小説を書いています。
言った通り、私の着眼点が当たり前すぎるので、アイディアが途切れないと言っても特に特別な才能などないのがわかってもらえたと思います。普遍的な「着眼点」による気付きも、今回説明する「掛け算」などのプロセスを経ることによって自分で考えつかないような物語になっていく可能性を持っているという話です。

どんな人でもアイディアが途切れなくなるように、よく私が小説を考える際に頭の中で行なっている「ジャンルの要素の掛け算」について言語化し、システム化してみました。誰もが持っている「種」を物語として成り立たせるためのシステムになっていて、この方法を使えば効率的に物語を成形できるため、私のように日々忙しい人にも参考になるかと思います。

この方法のメリット #

まず、特定のジャンルを意識することのメリットを挙げるなら、下記のとおりです。

  • どのジャンルに当て込むかを考えると物語の指針が立つ
  • 何を狙った表現にするのか、読者側の目的を意識すると圧倒的に筆が進みやすい

ここで、ジャンルに囚われることによって、個性が失われるのではないかという懸念も出てくるかもしれません。しかし、今回行なう方法は、ジャンルを絞り込むというわけではなく、当初想定していなかったジャンルから物語のヒントを得るためのプロセスです。

ジャンルから面白さを借りよう #

ジャンルを一つに絞るわけではなく、今からやる作業を経ることでジャンルをいくつかかけ合わせていくので、むしろ個性的な作品も生まれやすくなると思います。
つまり、今からおこなうのは、ジャンルの面白さを借りに行く作業です。そして、私もそうなることが多いのですが、結果的にジャンルを乗り換えたほうが面白そうならそっち方面に向かってもいいかも、という話です。

【準備】組み込むジャンルを決める #

これを意識して、早速準備をしていきます。

「書きたいもの」を把握して最低限の設定にしておく #

日々の「着眼点」から、物語にする最初の作業です。
まず、その着眼点の裏にある事実を細分化し、それが設定として絶対に譲れないかどうかを判断します。ここはこだわりたい、捨てていい、この範囲で設定の変更を許容できるみたいな判断ができればOKです。この時点で、その設定が面白いかどうかまで考えません。

【例:「私は、走り続けるのか」の場合】
冒頭で話した「もうみんなそれぞれの仕事とか家族持ってるんだな〜」という裏にある事実を整理します。集まったのは学生時代の部活の同期でした。毎日会っていた部活現役生の頃の当時は、同じ学校に通っていたので、当然同じような生活スタイルでした。大人になった今は、それぞれが違う仕事に就き、家族構成も住んでいる場所もみんな違っている、つまり、学生時代を共に過ごした後に友人たちの人生は多様化していったのです。
これを項目として細分化して、最低限の設定にします。説明した通り、こだわりたい部分は残し、捨てていいと思ったら捨てるし、許容の範囲を決めておく程度でも構いません。

  • 複数人の多様な人生観(こだわりたい部分)
    • 人生の多様性が面白いと思ったので、1人じゃなく、違いのある何人かを書きたいです。
    • 人数はかっちり決めないけど、多様さを表現するなら4人は欲しいかな、あんまり人数多いと読者が混乱しそうだな、と思います。
  • 30代くらい(許容の範囲)
    • 「絶対〇歳」というわけではなく、大体この先の人生決まってそうなくらいの年齢であればいいです。
  • 女性(こだわりたい部分)
    • 今回は女性ならではの人生を書きたいので。
    • 過去に書いた作品では、性別はどっちでもいいやとなって、執筆始めてから最終決定したこともあるくらいなので、こだわりがなければ性別はこの時点では絞らなくていいです。
  • それぞれに仕事や家族のあるリアルな生活(こだわりたい部分)
    • リアル感を出したい。
  • 職種や家族構成は未定(捨てていい)
    • あえて書きましたが、事実では具体的な「職種」「家族構成」がありながら、物語のうえではこの事実に固執しなくてもいいという、捨てた部分です。
  • 登場人物たちは学生時代の部活同期(こだわりたい部分)
    • この設定は柔軟にして「登場人物たちは過去に接点がある」とすることも考えられます。しかし、私は今回「部活」の「同期」たちを書きたいと思いました。
  • 登場人物たちの現在だけではなく、過去(学生時代)も描きたい(こだわりたい部分)
    • これは事実という括りにすると違和感がありますが、書きたい表現があれば設定に入れておくといいです。
    • 昔は同じ時間を過ごしていたのに、現在はそれぞれ全く異なる暮らしがあるというのを表現したいので。
    • 過去編は思い出話として振り返る程度でも良いし、回想としてボリューム持たせてもどちらでもいいです。

この時点では誰かをメインの主人公にして1つの物語にするのか、オムニバスとかシリーズものとして主人公が移り変わるようにするのかとかは特に考えていません。伝えたいメッセージとかも特に無く、「この部分が面白いから表現したいな〜」「これ書きたいな〜」っていうものを自分で把握しておくだけです。

ジャンル表に点数を付けていく #

私が小説づくりの際に頭の中でおこなっているプロセスを可視化するため、あらためて、下記の表を作ってみました。どんな要素があるとそのジャンルになり得るのかが明確になっています。
また、「読者への具体的なメリット」という欄もぜひ見ていただきたくはあるけど、今回のプロセスに直接関係あるものではありません。ジャンルが読み手に対してどんなメリットを与えるかというのもわかり、これは逆に考えると、読み手は何を求めて物語に触れるかが明確になっているとも言えます。物語を書いて、何を表現したいのかという参考になるので、おまけとして付けておきました。
表はこの記事の特別付録みたいなものなので、ぜひ実際に使ってみてください。

ジャンル要素の例読者への具体的なメリット親和性書きたい合計点
ファンタジー・SF独自の世界観: 魔法の体系や、架空の物理法則、未知のテクノロジーの設定。 異質な存在: 人間以外の種族、AI、宇宙人、あるいは特殊な能力を持つ人間。独特な世界観により、物理的な日常から最も遠くへ離れる
冒険小説明確な目的(クエスト): 失われた秘宝の捜索、目的地への到達、あるいは強大な敵の打倒。 過酷な環境: 秘境、砂漠、深海、あるいは戦場といった、常に生命の危機を感じさせる舞台設定。旅や困難な任務に挑む高揚感
ミステリー・推理小説謎: 不可能な状況での殺人や、説明のつかない不可解な出来事。 伏線と回収: 後から読み返すと意味がわかる、巧妙に配置されたヒント。 論理的推論: 探偵役が証拠に基づき、筋道を立てて真相に辿り着くプロセス。提示された謎を論理的に解き明かすプロセスを通じて得る知的充足感
歴史・時代小説時代考証 歴史人物 歴史的事件史実に基づいた知識を深めると同時に、過去の時代の空気感を論理的に再構築する楽しさ
恋愛小説恋愛的な関係性 障害と葛藤 官能的・情緒的描写恋のときめきや切なさを通じて、感情を大きく動かす
ホラー・スリラー異界からの侵入: 幽霊、呪い、あるいは理解不能な怪物など、日常を侵食する「未知のもの」。 閉鎖環境: 逃げ場のない洋館や孤島といった、心理的追い詰めをもたらす設定。 タブーの打破: 禁じられた儀式や踏み入れてはいけない領域に触れることで生じる破滅。恐怖や緊張感という強烈な刺激を得ることで、日常の停滞感を打破
コメディギャグ 風刺笑いによるストレス解消、楽天的な視点の獲得
悲劇・感動作避けられない運命: 努力では抗えない死、別れ、あるいは不条理な社会的状況。 自己犠牲: 大切な誰かのために自分を投げ出す行為や、その裏にある深い愛情。 失われるものの価値: 崩れゆく幸せや、終わりが分かっている日常を丹念に描くことで、その尊さを強調する。涙を流すことで精神的な浄化(カタルシス)を促す
ヒューマンドラマ普遍的な人間関係 内面の成長と変化: 経験を通じて登場人物の価値観や性格がどう変わったか。 日常の細部: 食卓の風景、何気ない一言、小さな習慣など、リアリティを感じさせる生活描写。他者への理解や社会的な視点を養う
お仕事小説専門知識: 特定の業界の裏側や、ビジネスの駆け引き、技術的なディテール。 組織内の権力闘争: 出世、派閥争い、あるいは正義を貫こうとする個人の孤独な戦い。 プロフェッショナリズム: 仕事を通じて成長する姿や、職人としての矜持。働くことの意味や自身のキャリアについて考えるきっかけに

表の「親和性」「書きたい」の項目に、0〜3の点数をつけていきます。点数に「0」を付けていいのがミソです。

  • 「親和性」
    先程決めた最低限の設定に対して、「要素の例」を盛り込んでも違和感がないか点数をつけてください。無理矢理感が出るほど点数が低くなり、絶対違うと思ったものには容赦なく0を付けてください。
  • 「書きたい」度
    自分自身が、今回書く物語を、そのジャンルで書きたいかどうか数値化して書き込んでいきます。好き嫌い・得意不得意も反映したいので、直感でいきます。「これは書きたくない〜!無理〜!」って思ったら迷わず即0です。その物語が面白くなるかどうかはこの点数次第な感じもします。

点数をつけ終えたら、「合計点」は「親和性」と「書きたい」を足し算ではなく、掛け算で算出します。理由は簡単で、親和性0なら物語の構成がすごく難しいものになるし、自分が書く気0のものを書くのも無理だからです。

表の合計点から物語の要素を判断する #

算出した合計点を見てみましょう。

  • 9点(満点)
    物語全体を一貫させるためのメインの軸となる第一候補です。たぶんジャンル表を照らし合わせなくても、書こうと思い立った時点でこのジャンルが頭にあったのではないでしょうか?言うまでもなく、ジャンル要素の掛け算に必須になります。
  • 6点
    どちらかは必ず満点の高得点なので、満点のジャンルと合わせて設定に採用しても作者の理想の形になりやすいし、満点になったジャンルに代わってこちらをメインの軸に据えてもいいくらいです。こちらも、ジャンル要素の掛け算には必須です。
  • 1〜4点
    アクセントとして入りそうなら入れてもいいくらいな感じです。設定時点でのジャンル要素の掛け算には候補にしないけど、執筆時に入れる足し算にはもってこいです。
  • 0点
    完全に無視して視界から消します。苦しみながら、今までにない物語を作りたい気分のときは敢えて0を選ぶのも手なのかもしれませんが、、。ただ、執筆途中とかで自然とこの要素が入ってきたときに排除する必要まではありません。

(念の為言っておくけど、3までの2つの数字の掛け算なので挙げてない5点とかは存在しないです)
【例:「私は、走り続けるのか」の場合】
今回書くのは現代人のリアルな生活や多様な人生なので、仕事・恋愛・悲劇は人生につきものというイメージだから親和性に3、冒険やミステリーが存在する人生は可能性としてはあるけど、ファンタジーやSFは絶対にないし、歴史ものでもないので、親和性0をつけていきます。
書きたいかどうかについては、ある程度親和性に引っ張られる部分もあると思いますが、それでも構いません。実際、ファンタジーとかSFって私は書くの大好きなんですが、今回違うな…って思ったので「1」を付けてますが、この評価は親和性にも引っ張られた結果だと思います。
冒険やコメディを書くのも好きですが、今回は冒険するような人物を据えたくないな〜となんとなく思ったし、すごい笑える話にしたいわけでもなく、完全に直感によって「1」を付けました。恋愛っぽくさせたくないし怖くなくていいので恋愛小説やホラーには0、ちょっと涙させたいから悲劇・感動作には2。このサクサク感でわかると思うのですが、「書きたい」かどうかについては、本当に、直感で点数つけてください
今回複数人を登場人物として取り上げるので、ちょっとしたミステリーがあったら、人物たちが交差しやすくなるだろうし、ここも直感ですが「面白そう」という理由で3にしました。

ジャンル親和性書きたい合計点
ファンタジー・SF010
冒険小説212
ミステリー・推理小説236
歴史・時代小説000
恋愛小説300
ホラー・スリラー100
コメディ212
悲劇・感動作326
ヒューマンドラマ339
お仕事小説339

合計点を出してみると、ヒューマンドラマとお仕事が満点なので、物語のメインの軸として第一候補になります。ミステリーと悲劇が6点なので採用します。
2点を取った冒険っぽさとコメディ感で味付けするのもありかな、と思います。

ジャンルの要素を掛け算していく #

ここまでは準備段階。ここからが重要なプロセスになります。
満点となったジャンルについては、きっと特に意識せずに物語を構築するだけでジャンル要素が自然に掛け合わされると思います。むしろ殆どの場合、すでに決めた設定の中にそのジャンルの要素が入っていると考えてもいいです。
先程の表での6点のジャンルについて、最低限決めた設定に馴染むよう、ジャンルごとの要素を含む設定や出来事を新たに組み込んで設定を増やしていきます。つまり、最低限の設定に対してジャンル要素を掛け算します。もし、満点ジャンルの要素が入ってなければ同じようにその要素を掛け算して新たに設定を盛り込んでいきます。ここで注意するべきなのが、今までの設定と全く関係ないものにならないようにすることであり、「足し算」ではなく「掛け算」であることが重要です。具体例を見ていきましょう。
【例:「私は、走り続けるのか」の場合】
先程説明した通り、殆どの場合は設定の中にすでに満点だったジャンルの要素が入っていると考えられる為、プロセスとしては必須ではないのですが、今回は例として提示するためにも最低限の設定がジャンル表のどの要素に当たっているのかを念の為確認しておきます。

  • かつて学校の部活仲間だった30代くらいの女性が複数人(ヒューマンドラマ要素)
  • 仕事や家族のあるリアルな生活や多様な人生観(お仕事小説要素・ヒューマンドラマ要素)
  • 学生時代の過去(ヒューマンドラマ要素)

やはりすでに満点ジャンルの要素は入っているので、敢えて加える必要は無さそうです。
さて、掛け算の工程に入ります。6点を取ったジャンルミステリー要素悲劇要素の2つとも、要素を確認してみると、何かが「消える」という設定を加えると良さそうなので相性が良いように感じます。さて、すでにある最低限の設定に噛み合うようざっくりと設定を加えます。これがジャンル要素の掛け算です。

  • 登場人物たちの大切な誰かもしくは何かが消えてしまった(悲劇要素)
    • 彼女たちの共通点は部活なので、消えたのは部活に関するなにかであることが考えられます。過去を描くことでそれがどのくらい大切だったかを物語の中で示すことができます。
  • 消えてしまったことに関して謎がある(ミステリー要素)
    • 謎を解くヒントが現代の日常生活や仕事にあれば、今ある設定とうまくかけ合わせることができると考えました。

「消えてしまった部活に関する大切なもの」が何なのか、謎を作れるかを考慮して設定していくことにしました。下記を候補にしましたが、今ある設定に馴染んだり活かせたりするかという掛け算の観点で考えます。

  • ◯「顧問」
    彼女たちの人生観に影響を与えた可能性もあるので、今回書きたい内容にしっくりきます。消息不明になったり、亡くなってしまうことが考えられます。日常生活にヒントが有るような謎も作れそうです。
  • ◯「部員」
    先輩、後輩、同期、もしくは登場人物のうちの1人の可能性もあります。顧問と同じく、今回の書きたい内容に合いそうです。
  • △「学校」
    謎の廃校をした可能性があります。母校には大切な思い出が詰まってるとはいえ、なくなったからと言って大きなショックはなさそうなので、悲劇要素として薄そうです。
  • △「競技(文化)」。
    時代に合わなくなってしまったり、競技人口が減った等で廃れてしまった可能性があります。

学校や競技が消えた謎を解き明かすのも面白そうではありますが、多様な人生観を描きたいので顧問か部員にすることにしました。
この時点で、ミステリー要素を軸にしても元ある設定がブレないし面白そうだと判断して、ミステリーを軸に立て「消えてしまったものがもつ謎を解明する」というストーリーをメインに置くことになったのです。当初、ミステリー小説を書くつもりではなかったどころか、ミステリーの要素ひとつさえなかったのに、です。

才能で辿り着けない物語を実現しよう #

ネタ切れの状態は、素材がないのではなく、素材を表現するための方法が見当たらないだけではないかと思います。
凡人の「着眼点」から生まれた種に、ジャンルが持つ構造をロジカルに掛け合わせることで、自分では想像しなかったような非凡な物語に育ててみてください。

かめい
著者
かめい
会社勤めをする傍ら小説家・漫画家として活動しています。

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