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時代のリアリティを出す小説執筆術——平成の当たり前=ガラケーや流行語から紐解くノスタルジー

目次

時代設定とノスタルジー

はじめに:「折りたたみ携帯」が呼び起こす平成の記憶 #

「右手でパーを出した茜のもう片方の手がギュッと折りたたみの携帯を持っている」
——この一文を読んだとき、あなたはどんな時代を想像しましたか?

もしあなたが2000年代を過ごした世代なら、パカパカと開く携帯電話、メールの着信音、絵文字を選ぶ楽しさがあった「あの時代=平成」が一気に蘇っただろうし、その時代を経験しない方なら「今とは違う時代」を想像したのではないでしょうか。

時代設定とノスタルジーは、小説において読者の心に直接訴えかける強力な武器です。しかし、単に「昔の出来事」を書けばいいわけではありません。読者が「あの頃」を追体験し、懐かしさに浸れるような描写には、明確な技術があります。

私はこれまで自作の中で、「平成」を舞台にした物語をいくつか描いてきました。これらの描写には、作者が自分事として経験してない部分もあり試行錯誤しましたが、読者の方から「懐かしい」という声をいただいております。
この経験をもとに、作者と登場人物の世代差や性差を超えてもリアリティのある「時代感」を生み出せる技術を体系化しました。

この記事を読むメリットがある人と活用方法 #

  • 平成を舞台に小説を書きたい方:解説や事例をそのままヒントとしてご活用いただけます。
  • 平成ではない特定の時代を小説に書きたい方:事例は平成に特化していますが、解説は他の時代にも応用できるようになっています。
  • 小説を深く理解しながら読みたい方:この記事を読むことで小説で行われている表現方法を要素として学ぶことができ、小説において作者が表現していることをより深く楽しむことができます。

具体例の活用方法 #

この記事では、各解説に筆者が執筆した小説の一部を具体例として提示しております。皆様が小説を書くヒントになれば幸いです。

  • 事例:筆者の作品を引用しています。
  • 解説:事例について、具体的にどこの部分がどのように効果をもたらすのかを解説します。
  • プロセス:事例について、筆者がどのようなプロセスで情報を得て、どのように組み立てを行なったかを紹介します。なお、ここで紹介している情報取得の方法については「V. 時代の情報を得るための方法」の項目で詳細を説明しています。

I. なぜ時代設定が重要なのか——現代小説における「ノスタルジー」とその役割 #

ノスタルジーとは一般的に下記のような意味を持ちます。

「望郷(ぼうきょう)」「郷愁(きょうしゅう)」という意味で、 過ぎ去った時代を懐かしむ心のこと
意味まとめ「ノスタルジーの意味とは」

小説を書く際に、時代設定をおこないますが、単にその時代に物語を配置するだけではなく、その時代が生み出す独特の空気感やアイテムによって読者に「ノスタルジー」を感じさせる、つまり、物語の中でその時代を動かすことで、読者の心が連動するような、より深みのある小説を書くことができます。
読者の心を揺さぶることで生まれる喪失感やさみしさといった不安定な気持ちは、「続きはどうなるんだろう」という興味につながります。

「平成」のノスタルジーを描く、意外な難しさ #

現代人のほとんどが過ごした「平成」を舞台にする場合、作者自身の体験をそのまま描けるメリットや読者が懐かしめるというメリットがありますが、思わぬ落とし穴もあります。
小説の作者がその時代を過ごしていたとしても、そのまま物語に反映できるとは限りません。
例えば、その時代を「大人として過ごした」のか「子供として過ごした」のかによって、時代の感じ方は変わってきますよね。 また、多くの人が過ごした時代だからこそ、少しの間違いが興冷めをおこして読者が離れていってしまうリスクもあります。

現代とかなり近い時代を描くとしても、意外と技術が必要なのです。

II. 時代のリアリティを出す「4つの要素」 #

読者に「この時代、確かにあった」と感じさせるための具体的な要素を散りばめていきます。

要素1: そこにあった「モノ」 #

当時存在した具体的な物品を描写することで、一気に時代が特定されます。
様々なモノの情報を得て、物語の随所に散らばせて存在させることで、時代背景の描写をしながらも遊び心を生み出す為、読者にストーリー性だけでない面白さを与えることができます。

【事例:平成初期の小物(1997年)】

- 転がしバトルができるタイプの鉛筆
- レアカード、キラシール
- 昭和と刻印された硬貨
- まだほとんど使っていなくて長いままの鉛筆

(「記憶のまち」第1話、prologue より)

解説:
「転がしバトルができる鉛筆」——1990年代の小学生なら誰もが知っている、しかし現代の子供は知らないアイテム。「せっかく買ってもらったのに学校で禁止された」というエピソードも、当時のリアリティを強めます。

【事例:2000年代後半の小物(2009-2010年)】

- 折りたたみの携帯
- ストップウォッチ
- センター試験

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「折りたたみの携帯」という一言で、スマートフォン以前の時代が確定します。読者は「ああ、あの頃か」と一瞬で理解します。説明不要で、さりげなく配置することが重要です。
センター試験は今もあるように思いますが、「共通テスト」というように、名前が変更されています。

【プロセス】
「モノ」の情報は多く存在している為、最も取り入れやすいです。不自然にならない程度に、たくさん取り入れていくとその時代が物語に反映されていきます。
特に、懐かしい「モノ」はブログの題材として扱われやすく、インターネット上でもたくさんの情報を得ることができます。
私は、この個人発信の情報が正しいのかを判断するために雑誌や新聞にも頼りました。
新聞も新製品や流行しているものがわかりやすかったのですが、情報量がとても多く、選定が難しい面もあります。情報の正確性の確認に活用する程度がちょうどいいように個人的には感じました。

  • 選び方のコツ
    • 世代全員が知っている「あるある」なモノ
    • 現代にはもうないモノ
      対比が効くので、懐かしい響きがするものを選ぶようにしました。
    • 説明不要で一言で分かるモノ

要素2: 使われていた「言葉遣い・流行語」 #

当時使われていた言葉を自然に会話に織り込みましょう。

【事例】

「そりゃ試験もあるけど〜、でも遊ぶのも大事じゃん?JKなんだし!」

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「JK(女子高生)」という言葉は、2000年代後半〜2010年代前半に流行した表現です。現代の若者は「JK」とはあまり言わず、この言葉自体が時代を特定します。里奈の華やかで目立つキャラクター性とも合致しています。

【プロセス】
当時流行った言葉は雑誌から得ることができました。雑誌はジャンルごとに別れており、特に女性については各世代のファッション誌が刊行されていたため、見出しや説明文に時代・世代特有の言葉がたくさん取り入れられています。言葉遣いや流行語を具体的な文例として捉えることができ、メリットがありました。

  • 注意点
    • 流行語は使いすぎると古臭くなる
    • 会話に1〜2回、さりげなく入れる程度
    • 地の文ではなくセリフで使う
    • キャラクターの性格に合った言葉を選ぶ

要素3: 時代特有の「空気感」 #

モノや言葉だけでなく、その時代特有の価値観や雰囲気を描きましょう。
同じ時代を生きた読者は「あの頃の自分」との重なりを感じながら、その時代を知らない読者であればその時代を体感しながら物語を読み進めることができます。

【事例: 2009年の女子高生文化】

ほぼ全員が、制服のスカートをかなり短くして履いていて、コートも着ていない。
マフラーだけは大きくて暖かそうなものをしていても、
はたから見れば1月の中旬にもかかわらずすごく寒そうな格好だと言える。
彼女たちが特別そうしているわけではなく、周りの女子高生たちも、
大体同じ制服の着こなしをしていた。

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「周りの女子高生たちも、大体同じ」という一文が重要です。現代の読者が見れば「今はそうじゃない」と感じ、当時を知る読者は「確かにそうだった」と懐かしむ。時代設定が「あの頃」を鮮明に蘇らせます。2000年代後半の女子高生文化を、説明ではなく描写で表現しています。

【プロセス】 空気感についても、雑誌から多くの情報を得ることができます。要素2でも触れた通り、雑誌はジャンルごとに分かれており、文化について多く言及されているからです。雑誌には写真も多く、視覚的に捉えられるため、空気感の取得には適しています。
事例においては女子高生であり、具体的にはセブンティーンやポップティーンといったファッション誌に多くの情報が掲載されていました。当時を振り返った個人のブログもあり、それも参考になりました。
作者自身がその時代を知らない場合は、時代を知る人に聞いてみるとその空気感を捉えることができるかもしれません。

【事例: 1997年の子供の遊び】

直哉はすでにRPGの主人公の気分だった。Aボタンを押す。

(「記憶のまち」第1話 より)

解説:
1990年代、ゲームボーイやファミコン世代の子供たちは、RPGに夢中になりました。「Aボタンを押す」という感覚は、スマホゲーム世代には通じない独特のノスタルジーです。直哉の想像力豊かな性格も表現されています。

【プロセス】 こういった比喩的な表現については、個人ブログや掲示板が貴重な情報源となります。まずは雑誌などで当時流行したものを特定していき、それを元にネット検索をおこなうと具体的にどんなものだったのか「動作・感覚」などの情報が得られます。
噛み砕いた情報を比喩的に落とし込んでいくことで、その時代背景に沿った面白さを生み出すことができます。

要素4: 時代にあった「制約」 #

現代にはない「不便さ」や「制約」が、物語のドラマを生みます。
スマートフォンはたくさんの機能を持っています。スマホがガラケーだった頃、携帯電話すらなかった頃、現代との大きな対比が描けます。
人々がどうやって情報を得ていたのか、どうやって連絡を取り合っていたのか、これをフックに新たな物語を創造することもできるでしょう。

【事例: 連絡が取れない時代】

「さっき電話かけたけど繋がらなかったんだよね」
(中略)
結局壁にこう残して、隠すようにロッカーを置いた。

めぐ先生
これ見たら絶対連絡ちょーだい!!!

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
現代ならLINEやメールですぐ連絡できますが、以前は「電話が繋がらない=連絡不可」でした。技術的な制約が、人間関係の断絶を象徴しています。なお、この物語が描く2010年にはメールなら存在しますが、まだ生徒と先生をつなぐ手段としてはあまり認められていません。
電話という手段がなく、生徒たちは壁に落書きとして先生へのメッセージを残しました。壁に書かれたメッセージは個人的に送られるメールとは違い、公にされたものであり持続性もあります。結果的には、この壁に書かれたメッセージが新たなドラマを生み出します。
日常生活では不便=デメリットとされますが、物語においてはこれを元に新たな展開を生み出すことも可能となるメリットなのです。

【プロセス】
これは、すぐに連絡を取れないという状況が物語の展開のキーとなった事例のひとつです。
誰かと会えない時にLINEがないならどんな連絡手段があるだろうかと考え、ネットで昔のことを検索したところ「駅の掲示板」という手段が見つかりました。これを応用し、高校生らしいイタズラという意味もこめて、壁に残すという手段に変換しました。

【事例: 検索できない時代】

「そこまで行くの、どのくらいお金かかるんだろう?」リサはワクワクする気持ちとの葛藤の末、結局は現実のほうを見た。
「計算してみようか。まずはルートを考えよう。」しげちゃんはまた別の本を持ってきて、開いたページには路線図が広がっていた。

(「記憶のまち」第2話 作戦会議 より)

解説:
現代では電車のルートや運賃はスマホひとつで調べることができます。しかし、スマホやパソコンがなかった時代、何かを調べるにも現代では当たり前となったツールはありません。この不便さが物語を冒険へと仕立てます。

【プロセス】
スマホがなかった時代、電車のルートや運賃をどうやって調べていたのだろうと思い、ネットで当時のことが書かれた記事を探したり、自分自身がネットがなければどうやって調べるだろうと想像を膨らませました。
そこで必要となった「電車への造形の深さ」。こういった専門知識を登場人物に落とし込んでいきます。
時代背景を組み込むことによって趣味や人間関係といった、登場人物の人生観を同時に生み出すことができます。

III. ノスタルジーのある描写をするための「5つの技術」 #

時代設定を「ただの背景」で終わらせず、読者の感情を揺さぶるノスタルジーに昇華させる技術を解説します。
なお、紹介するすべての技術を取り入れるのではなく、小説の流れに合わせて取捨選択してください。

技術1: 「今と違う」を明確化させる #

失われたものへの郷愁が、最も強いノスタルジーを生みます。
また、逆に、あのときは「なかった」というものをノスタルジーの源泉です。
つまり、とりあげた時代において、今と何が違うのかを明確化させたうえで小説に落とし込むという技術が必要です。

II. 時代のリアリティを出す「4つの要素」にて取り上げた事例では、どれもその時代と現代との違いが明らかなものを、時代を映す要素として取り込んでいます。

技術2: 「あの頃の感覚」を五感で描写する #

視覚だけでなく、音、匂い、触感、味覚を使って時代を描きましょう。

【事例: 触感+視覚】

無造作に突っ込まれたプリント類をすべてめくると、平成の初期を覗き込んだようなものだった。
そこには、友達に返し忘れた漫画もゲームソフトもある。
それを取り出すと、下には、まだほとんど使っていなくて長いままの鉛筆が数本あった。

(「記憶のまち」prologue より)

解説:
現代を描写した部分ではありますが、特定の時代にタイムスリップしているような感覚を生み出しているため、事例として引用しています。
「無造作に突っ込まれた」「めくる」「取り出す」という動作、「長いままの鉛筆」という具体的な描写。読者は自分の子供時代の机の引き出しを思い出します。誰もが経験した「整理されていない引き出し」という共通体験が、強い共感を生みます。

【事例: 温度感覚】

1月の空気は冷たく、走るとそれが顔に突き刺さるようだった。
私たちはすべての季節を走ってきた。

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「顔に突き刺さる」という冬の冷たさ、「すべての季節を走ってきた」という時間の積み重ね。読者は自分の部活時代を重ねます。温度感覚は記憶と強く結びつくため、ノスタルジーを喚起する力が強いのです。

技術3: 過去と現在を「並列」させて喪失感を出す #

同じ場所、同じ人物を、異なる時間軸で描き、時の流れと変化を際立たせます。
時代の対比をすることで、時間の流れ、変化、喪失といったテーマが自然に浮かび上がります。

【事例】

陸上部の部室内、どこにするかは迷ったけど、結局壁にこう残して、隠すようにロッカー
を置いた。

めぐ先生
これ見たら絶対連絡ちょーだい!!!
あかね まい みほ りな あや ちひろ
2010.3.6

もう誰も、めぐ先生に会うことすら叶わないとも知らずに。

〜中略〜

「見てこれ、ロッカーどかすと壁に落書きしてあってね…」
「ほんとだ。2010…?15年くらい前?」

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
2010年の当時の高校生たちが部室の壁に書いた落書きを約15年後、現代の高校生たちが見つける様子です。 この後、現代の高校生たちを描いていくことで、時代の流れ、移り変わりを対比として表現でき、ノスタルジーを生みます。

【事例: 30年の時間差】

地図アプリだけではなく、ブラウザもSNSも手当たり次第に検索してみる。
それでも、結局「まち」に関する情報は一切出てこなかった。
—約30年前にオレたちがたどり着いた「まち」は、確かに存在していたはずなのに。

(「記憶のまち」prologue より)

解説:
インターネットがない時代(1997年)に手書きの地図を頼りに冒険した少年が、30年後の現代(検索社会)でその場所を探しても見つからない。この対比が、「失われた場所」という物語の核心を際立たせます。技術の進化が、逆に「見つけられない」という皮肉を生んでいます。

技術4: 時代の「終わり」を予感させる #

ある時代が終わろうとしている瞬間を描くことで、ノスタルジーが強まります。

【事例】

部活を引退してからはそんなに走ることなんてなくなってしまったのを実感して、
茜は、この高校生活で走るのがずいぶんと楽しくなったのだと思い返していた。

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「なくなってしまった」「思い返していた」という過去形。高校生活が終わろうとしている「終わりの予感」が、切なさを生みます。当たり前だった日常が、もう戻らないものになろうとしている瞬間の描写です。

【事例】

—約30年前にオレたちがたどり着いた「まち」は、確かに存在していたはずなのに。

(「記憶のまち」prologue より)

解説:
「はずなのに」という言葉が、失われた記憶、失われた場所への哀愁を表現しています。「確かに存在していた」という確信と、「見つからない」という現実の矛盾が、喪失感を強めます。

技術5: 「当時は気づかなかった価値」を今になって描く #

後になって気づく大切さが、最も深いノスタルジーを生みます。

【事例】

6人でいる時間は、意味のないことまで面白くさせてしまう。

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
「意味のないこと」が「面白い」——当時は当たり前だったこの時間が、今は失われている。読者は「あの頃は何でも楽しかったな」と自分の青春を重ねます。「意味がない」からこそ尊い、という逆説的な価値観が、深いノスタルジーを呼びます。

IV. 時代設定の「落とし穴」と回避法 #

ノスタルジーを狙いすぎて失敗するパターンと、その対策を解説します。

落とし穴1: 時代考証の「ズレ」で興醒め #

NG例:

2009年。
高校生だった茜はスマホを取り出し、LINEをしていた。

解説:
→ iPhone日本発売は2008年、LINE日本リリースは2011年 2009年時点ではまだ普及していない細かい時系列のズレは、その時代を知る読者には一瞬で分かってしまい、没入感を破壊します。

対策:

  • 年表を作り、その年に「存在したもの/しなかったもの」を確認
  • 当時の写真、動画、ニュース記事を資料として参照
  • 同世代の人に読んでもらいチェック
  • 不安な場合は、具体的な商品名を避け「携帯電話」など一般名詞を使う

落とし穴2: 説明しすぎて「博物館」になる #

NG例:

茜のもう片方の手がギュッと携帯電話を持っている。
2000年代の携帯電話はまだパカパカと開閉する仕組みをもつ折りたたみ式になっていることから小型であり、手に収まるような形状だから握れるのだ。

OK例:

茜のもう片方の手がギュッと折りたたみの携帯を持っている

(「私は、走り続けるのか」prologue より)

解説:
時代の小物は、説明せず「さりげなく」配置しましょう。知らない読者は雰囲気で理解し、知っている読者は懐かしみます。詳細な説明は物語のテンポを壊し、読者を「観察者」の立場に置いてしまいます。

対策:

  • 時代の小物は、説明せず「さりげなく」配置する
  • 地の文での説明は最小限に
  • キャラクターの自然な行動の中で描写する

落とし穴3: ノスタルジーに溺れて物語が進まない #

NG例:

あの頃は良かった、楽しかった、戻りたい…(延々と回想が続く)

解説:
ノスタルジーは「味付け」であり、物語の「本筋」ではありません。懐かしさだけで物語を進めると、読者は飽きてしまいます。

対策:

  • 時代設定はあくまで背景として機能させる
  • 物語は常に前に進める
  • ノスタルジーは「スパイス」程度に抑える
  • 回想シーンは短く、必要最小限に

V. 時代の情報を得るための方法 #

私が実際に活用したものを中心に時代の情報源について詳細に説明します。

情報源に足を運ぶ #

  • 地域の図書館
    図書館内で資料を探して読んだり、貸し出しのサービスを活用して気軽に利用できました。
    当時の時代を描いた書籍があれば参考にできますが、雑誌や新聞のアーカイブなどはほとんどされていません。
  • 国立国会図書館
    国内の出版物が網羅的に集められており、海外の資料も収集されています。書籍だけではなく、雑誌や新聞もアーカイブされており、時代の情報収集に適しています。
    東京本館が永田町にあるほか、関西館、国際子ども図書館があります。
    登録が手間でしたが、特に雑誌類は写真がたくさん掲載されていることが多いため、現物をパラパラめくりながら当時の情報をたくさん得られるので、とても役立ちました。

インターネットで探す #

  • 個人ブログ・SNS
    平成・昭和の近代であれば、ある時代について懐かしんで書いたブログ記事など個人の情報発信源がたくさんあります。特に、当時の雰囲気を表現したい場合に参考になりました。
    ごく近年においては、当時書かれたブログ記事も存在しているため、生きている資料を目にすることができました。
  • 国立国会図書館サーチ
    国立国会図書館から遠方に住んでいる場合に特に活用できます。
    インターネット上で閲覧できる書籍もありますが、閲覧不可となっている場合はPDFや複製したものを有料で得ることもできます。実際国立国会図書館に行く場合も、事前にこちらで調べておくとスムーズな資料取得が可能となったため、私も重宝したサイトです。
  • YouTube
    個人で撮影した古い動画も意外と投稿されています。時代の雰囲気を動いているものとして捉えられるので、貴重な資料となりました。
  • 邦楽・洋楽年代別ヒット特集(mora)
    その時代に流行っていた音楽を知ることができます。実際にその時代に流行った音楽を聞くことで曲調からインスピレーションを得られたり、歌詞から時代のヒントが得られたりします。
    主な出来事も添えてあるので、私も執筆時によく見ていたサイトでした。
  • ヨミダス
    読売新聞が提供している過去の新聞記事です。高額なので私は利用していませんが、事件などを取り扱いたい際には重宝しそうです。

資料を購入する #

  • 書店
    当時の時代を描いたり、情報が集約された書籍を購入できます。
  • メルカリなどのフリマアプリ
    過去の雑誌や新聞が入手できます。もちろん書籍も取り扱われています。
    個人の中古品のため安価に入手できるものが多く、手元に置いておきたい資料を得たいときに重宝しました。
    出品してる人がいなければ入手できないので、フリマアプリで理想の資料が得られるかどうかは運次第なところはあります。
  • ブックオフなどの古本屋
    フリマアプリよりも相場は高いと感じますが、立ち読みができるため、いい資料になりそうだという確信を持ってから購入が可能になります。
    出品してる人がいなければ入手できないのはフリマアプリと同様で、やはり運次第です。

VI. 【実践ワーク】あなたの物語に時代のリアリティを加える #

ステップ1: 時代を決める #

あなたの物語はいつの時代ですか?

  • 具体的な年号を決める(例: 1997年、2009年)
  • その時代を選んだ理由を明確にする
  • 物語のテーマと時代の関係を考える

ステップ2: 時代の「象徴」を3つリストアップ #

その時代にあった「モノ」「言葉」「文化」を3つ挙げてください。

例(1997年):

  1. ゲームボーイ
  2. 公衆電話
  3. 「超〜」という若者言葉

例(2009年):

  1. 折りたたみ携帯
  2. センター試験
  3. 「JK」という言葉

ステップ3: 「今はもうない」ものを選ぶ #

リストから、現代にはもう存在しないもの、または形を変えたものを1つ選び、物語に配置してください。

例:

  • 手書きの地図(→Google Maps)
  • 折りたたみ携帯(→スマートフォン)
  • センター試験(→大学入学共通テスト)

ステップ4: 五感で描写する #

選んだものを、五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)のどれかで描写してください。

例:

手書きの、落書きのような地図だ。
そのひとつひとつに、なつかしい夏の匂いを覚える。

説明ではなく、描写で時代を表現することが重要です。

まとめ: 時代設定は「失われた時間」を取り戻す魔法 #

時代設定とノスタルジーは、読者を「あの頃」に連れ戻す魔法です。

折りたたみの携帯、手書きの地図、冬の冷たい空気——これらの具体的な描写が、読者の記憶を呼び覚まし、物語に深い感情移入をもたらします。

今回紹介した要素と技術を活用し、あなたの物語に時代のリアリティとノスタルジーを宿してください。

【今すぐできる実践ワーク】 #

あなたが書きたい(または書いている)物語の時代を決めてください。

チェックリスト:

  • □ 具体的な年号が決まっているか?
  • □ その時代の「モノ」を3つ挙げられるか?
  • □ その時代の「空気感」を言葉で説明できるか?
  • □ 「今はもうないもの」を1つ以上配置しているか?
  • □ 五感で時代を描写しているか?

全てチェックが入れば、あなたの物語は読者の心に残る時代性を持っています!

次のおすすめステップ #

プロット作成・執筆 #

プロットや執筆に時代設定を取り入れ、ノスタルジーを表現していきましょう。

設定を練り直す #

時代設定をつくったり、見直してみましょう。