引き込まれる導入部分の書き方【小説の作り方】
目次

導入:読者は最初の「3行」で作品を読むか決めている #
小説の執筆において、最も集中力を注ぐべき場所はどこでしょうか? それは、物語の結末でも、複雑な中盤でもなく、まさに「導入部分」です。
現代の読者は、SNSや大量の情報に晒されており、作品を読み続けるかどうかを最初の数行(または最初の1ページ)で瞬時に判断しています。
導入部は、物語の世界観やテーマを懇切丁寧に説明する場所ではありません。そうではなく、読者の手を掴み、物語の世界に引きずり込むための強力な「フック(鉤)」であることを理解しましょう。本記事では、読者を逃さないための具体的な導入の技術を解説します。
I. 読者を一瞬で掴む「フック」の原則 #
導入で読者の注意を惹きつけ、次のページ、さらに次の章へと進ませるための具体的なテクニックを紹介します。
1. 「説明」をせずに「現象」から始める(事件・行動優先) #
世界観や設定の説明を徹底的に排除し、「何かが起きている瞬間」や「キャラクターが行動している瞬間」から物語を始めるのが鉄則です。
- NG例: 「この国は魔力によって統治されており、国王の血筋が—」という説明から始める。
- OK例: 「主人公が、突然鳴り出した警報機を止めるために飛び起きる」という行動から始める。
【例】こんな頻度で実家に戻るようになったのは、四年前からだった。と言っても半年に一回とか、そんなもんだ。自宅からは電車で一時間もかからないけど、帰る理由も特にない。そして実家に来てもやることはなく、子供の頃使っていた部屋を少しずつ整理していた。(「記憶のまち」より)
【解説】読者にも共感を得やすい「実家との距離感」、「行動」から入り、読者の共感を掴む導入も強力なフックとなります。
2. 読者に「なぜ?」と思わせる情報の「欠落」 #
導入で、重要な情報をあえて意図的に隠すことで、読者に「何があったんだ?」「どういうことだ?」という疑問を持たせ、続きを読ませる動機を作ります。
この「情報の欠落」は、読者の好奇心を刺激し、物語の進行を加速させます。読者は、その欠落したピースを埋めるために読み進めてくれるのです。
3. 強烈な「感情」または「五感」の描写を冒頭に置く #
導入の冒頭で、読者の感情を揺さぶるか、五感を刺激することで、瞬時に物語に引き込みます。
- 【例:感情フック】
「あのときも、もう一度確認していれば大丈夫だったかもしれない。」
「あのときも、勇気を出して声をかけていたら何か違ったかもしれない。」
「あのときも、自分が行っていれば…」(「リグレットゲージ」より)
【解説】「後悔」という普遍的な感情から入り、読者を物語の当事者として引き込みます。この読者への問いかけは、感情の共鳴による最も効果的なフックの一つです。 - 【例:五感フック】
手書きの、落書きのような地図だ。
いくつも折り重なる山々。
川の外側にある2つの黒丸。
大きな木の横にある×印…
そのひとつひとつに、なつかしい夏の匂いを覚える。(「記憶のまち」より)
【解説】視覚・嗅覚という五感描写をフックとすることで、読者の記憶とノスタルジーに直接訴えかけます。
II. 導入部の長さと構成のコントロール術 #
「掴み」の後の読者の離脱を防ぎ、物語の核心へとスムーズに移行させる技術を解説します。
1. 導入は「物語の予告編」として機能させる #
導入部の役割は、以下の3つの要素を、説明ではなく短い描写で読者に提示することです。
- テーマ(この物語は何の話か)
- ジャンル(ミステリーか、ファンタジーか)
- 主人公の性格(どんな人間か)
これらの要素が提示されたら、導入部は一旦終了です。理想的な長さは、読者がストレスなく読み終えられる、原稿用紙数枚〜1章(または5000文字以内)に収めることを目安にしましょう。
2. 「シーンの結び」で次のシーンへの動機を作る #
導入シーンの終わりは、問題が解決した状態ではなく、「次の問題が発生した状態」や「主人公が重要な決断を迫られた瞬間」で締めることが鉄則です。
- 【事例:予期せぬ中断フック】
「パパ、おはよう!早くしないと遅刻するよ。」
何年も、何十年も離れた遠くから声が聞こえた気がして、大樹は「もう朝…今日も仕事か」とゆっくりと起き上がろうとした。
「あれ?目が開かない。起きられない。」金縛りのようにもがこうとするわけではない。力が入らないのだ。
「起きられない?当たり前じゃないですか、リグレットゲージが限界値を超えたんだから—」(「リグレットゲージ」より)
【解説】導入の結びで日常の予期せぬ中断と非日常のセリフでシーンを閉じ、読者を強制的に次の章へと誘導します。 - 【事例:現代的違和感フック】
地図アプリだけではなく、ブラウザもSNSも手当たり次第に検索してみる。
それでも、結局「まち」に関する情報は一切出てこなかった。
—約30年前にオレたちがたどり着いた「まち」は、確かに存在していたはずなのに。(「記憶のまち」より)
【解説】「検索しても見つからない」という読者にとって最も理解しやすい「現代の違和感」で締め、ノスタルジーから一気にミステリーへの転換を完了させています。
3. 必要な設定情報は「後出しジャンケン」で提示する #
導入後に、読者が最も知りたい情報(世界観のルール、専門用語など)を、物語の進行に合わせて小出しにする方法を徹底します。
これを怠り、導入後に一気に分厚い設定情報を提示すると、読者は疲弊し、「設定の山」に埋もれてしまいます。必要な情報は、主人公がそれを使うときやそれについて疑問を持ったときに、自然な会話やモノローグで提示しましょう。
リグレットゲージでも、プロローグ終了後から、案内人との会話形式で「主人公に何が起きたのか」「リグレットゲージとは何か」ということが解き明かされます。
III. 導入でやってはいけない「読者を遠ざけるNG行為」 #
プロの視点から、読者を最も早く離脱させる具体的な失敗例を指摘します。
1. 「説明」から入る長すぎる設定の解説 #
読者が感情移入する前に、世界の歴史、魔法の体系、複雑な組織図など、「読むべき情報」として提示してしまうのは、読者の集中力を奪います。設定は、物語が始まってから、「知りたいタイミング」で提示しましょう。
2. 「誰でもない誰か」の抽象的な描写 #
主人公の感情や行動に具体性がなく、「何となく寂しげな少年」のように抽象的に描写されると、読者は感情移入できません。導入では、主人公に固有の行動、思考、感情を与え、読者が「この人物はどんな人だろう?」と具体的に想像できるように描きましょう。
視覚情報がない小説だからこそ、登場人物には『読者が覚えられる固有の特徴』を必ず持たせる必要があります。小説では登場するものに見た目で判断ができず、固有の特徴がないと読者は印象として残すことができません。名前でも思考でも見た目への言及でも構わないので、印象的な情報を与えておくことで読者を導くことができるでしょう。
3. 脈絡のない「夢オチ」や「安易な回想」 #
導入部での不必要な回想や、導入部がすべて「夢オチ」だったという展開は、読者を裏切ったように感じさせ、せっかく引き込んだ読者の熱量を一気に冷まします。導入部は、読者との「この物語は現実(作品内の)である」という約束の場であることを忘れないでください。
まとめ:導入部を書くことは「読者との最初の約束」である #
導入部は、読者との「この物語は面白い、読む価値がある」という最初の約束を交わす場所です。
最高の導入は、読者を物語の世界に迎え入れ、最後までエスコートするための最初の一歩です。今回紹介したフックの原則と、筆者の具体的な事例を参考に、読者を決して逃がさない導入部を作成してください。
【次の記事予告】 これで執筆テクニックに関する情報記事は一通り揃いました。次回は、最後の情報記事となる「創作を続けるためのマインドセットとモチベーション維持法」など、作家としての心構えに関する記事へと繋げます。