【引き込まれる導入部分】物語のはじまりは広告の作り方に倣え

目次
冒頭で判断する読者に与えるべき情報とは #
小説執筆で最も集中力を注ぐべきは「導入部分」。続きを読む読まないを判断するのは導入部分でしかないからです。
現代の読者は、SNSや大量の情報に晒されており、作品を読み続けるかどうかを最初の数行(または最初の1ページ)で瞬時に判断するのだとか。
ちなみに、私も昔ハリー◯ッター読もうとして3行で「無理!」となり、あの分厚い本を拒絶しました。このエピソードを広告の視点で考えると、世界中の人が夢中になった名作でさえ、ターゲティングがズレている人にとってはその続きは要らないものになってしまうのだと推測されます。
導入部分は、物語の世界観やテーマを懇切丁寧に説明する場所ではありませんが、このあとの展開を読者にある程度想像させ、読むべき・読まなくて良いを判断させる場所です。つまり、読者の手を掴み、物語の世界に引きずり込むための「入口」なのです。
では、その入口で読者に対し「読むべきだ」と判断させるにはどうすればいいのでしょうか?私はそのヒントを「広告」にみつけました。
本記事では、読者を逃さないための具体的な導入の技術を広告になぞらえて解説します。
広告の作り方を物語に取り込む #
まず説明しておきたいのですが、記事タイトルにもある「はじまりは広告の作り方に倣え」というのは物語の最初を広告として捉えて 「宣伝目的で書く」という意味ではありません。
広告は目的を持って緻密に計算されて作られています。広告を見て「気になる」→「購入」という流れは多くの方が経験したことがあると思いますが、広告をつくるときの手法を参考にして、「気になる」→「次話以降も読む」という流れを物語に組み込むことが今回の趣旨になります。
読者を掴む「広告の要素」 #
広告は短い時間で注意を惹きつけ、その役割を果たしますが、広告には大体定番の要素が入っています。物語の中でも使えるような、次のページ、さらに次の章へと進ませるための具体的な要素を紹介します。ポイントは読者に「気になる!」と思わせることです。
【ターゲット】「自分に関係ありそう」と思わせる #
例えば、
実例:
こんな頻度で実家に戻るようになったのは、四年前からだった。と言っても半年に一回とか、そんなもんだ。自宅からは電車で一時間もかからないけど、帰る理由も特にない。そして実家に来てもやることはなく・・・
(「記憶のまち」より)解説:
読者にも共感を得やすい「実家との距離感」から入る導入も強力なフックとなります。親近感が湧いた人には、「この人、ちょっと自分に似てない?」という「気になるポイント」になります。「実家遠くも近くもない勢あるある」です。
ちなみに、自分で書いておいて何ですが、この冒頭に私は全く共感しません。しかし、「こういう人いるよね」という親近感があります。「結構こういう人多いよな〜」って思いながら意図的に書いた部分だからです。
実例:
30代に入ってから、急に年を取る感覚が目でわかるようになってきた。かと思えば顔つきはまだまだ未熟にも感じる。年を取った分に見合うような成長をできているんだろうか。
(「リグレットゲージ」より)解説:
「年齢だけ上がっていくが、中身が伴っているか?」という誰もが持ちうる悩みを、読み手が鏡を見ているかのような表現で取り入れています。
【ビジュアル】CMやポスターのような「視覚情報」を再現 #
導入の冒頭で、読者の感情を揺さぶるか、五感を刺激することで、瞬時に物語に引き込みます。
実例:
「うそーっ!?こんな脆いの?」
かなり丈夫に出来ているはずのストップウォッチだ。めぐ先生はうっかりそれを落としてしまっただけだし、衝撃音すらしなかった。
それでももう、いくらボタンを押しても動かなかった。
(「私は、走り続けるのか」より)解説:
視覚と聴覚の情報で、読んだ人の目に映像を再現させます。
【キャッチコピー】強い言葉を置く #
実例:
もしかしたら、今日この後、あなたのリグレットゲージは限界値を超えるかもしれません。
そのとき、あなたは人生のやり直しを選択しますか?—
(「リグレットゲージ」より)解説:
「後悔」という普遍的な感情から入り、読者を物語の当事者として引き込みます。この読者への問いかけは、感情の共鳴による最も効果的なフックの一つです。
広告やマーケティングで多用される「手法」を物語に使う #
広告には人間の心理現象を利用した技術が多く扱われています。これを物語の執筆で使いこなし、読者の心理を掴みましょう。
【お試し版】今後のことを擬似的に体験させる #
例えば、食品の試食をしてみてから購入することってありますよね。「思ったものと違った」というリスクを避け、安心感をもって購入できるメリットがあるため、私も試食があれば試してから購入を決めたい派です。
執筆においては、導入部分で「こんな話をしていきますよ」という提示をして、次話以降も読んでもらうための手法にアレンジできます。
実例:
無造作に突っ込まれたプリント類をすべてめくると、平成の初期を覗き込んだようなものだった。
そこには、友達に返し忘れた漫画もゲームソフトもある。
それを取り出すと、下には、まだほとんど使っていなくて長いままの鉛筆が数本あった。転がしてバトルができるタイプのもので、せっかく買ってもらったのに学校で禁止されてしまったのだった。
(「記憶のまち」より)解説:
「記憶のまち」では、ノスタルジックな約30年前の懐かしい物語が展開されますが、プロローグでは過去を振り返る主人公の様子をクッションに据えながら、次話以降を擬似体験させています。
【ツァイガルニク効果】「中途半端」の居所の悪さを解消したい心理 #
よくある「続きはWEBで!」のように、キリの悪いところで情報を中断させる、予告のような効果です。
実例:
「見てこれ、ロッカーどかすと壁に落書きしてあってね…」
「ほんとだ。2010…?15年くらい前?」
(「私は、走り続けるのか」より)解説:
1話目(プロローグ)の終盤の会話はここで途切れ、15年後のことは続きを読まないとわからないような中途半端な切り方をしています。次話以降は違う場面が続き、印象的なこの会話の続きはしばらく読み続けないと出てきません。
【ティーザー】「全貌を見たい」と思わせる方法 #
新商品やサービスの発売前に、詳細や一部を意図的に隠した状態の情報を公開して消費者の興味をひいたり期待をさせるという手法です。ツァイガルニク効果と似ていますが、ティーザーもその効果を利用した手法のひとつ。マーケティングにおいては、より情報を小出しにすることが多いイメージです。これを執筆に応用して、明らかでないものを段階的に提示していくという方法が取れます。
実例:
リグレットゲージは、あなたが後悔をする度に溜まっていきます。ゲージの上限は、人によって異なります。
↓
「起きられない?当たり前じゃないですか、リグレットゲージが限界値を超えたんだから—」
(「リグレットゲージ」より)解説:
読み始めた読者は「リグレットゲージ」というモノについての情報を全く知りません。物語が進むに連れて段々とその正体を明かしていきます。
【エッセンス訴求】読んだら何を得られるのか想像させる #
広告において、消費者に「この商品を購入するとどうなるか」をイメージとして膨らませるための訴求方法です。「物語を読んだらどうなるのか?」読者をワクワクさせるための方法として使えます。
実例:
もう誰も、めぐ先生に会うことすら叶わないとも知らずに。
(「私は、走り続けるのか」より)解説:
この話が「めぐ先生がいなくなってしまった話」であり、「めぐ先生がどうなってしまったのか、この先を読めばわかるのかもしれない」と、この一言でわかるようになっています。プロローグの中で読者が「ミステリー小説なのかな」とイメージできるようにしました。
必要な設定情報は「後出し」で提示する #
読者が最も知りたい情報(世界観のルール、専門用語など)については、物語の進行に合わせて小出しにする方法を徹底します。先程の「ティーザー」の手法を継続するようなイメージです。
これを怠り、一気に分厚い設定情報を提示すると、読者は疲弊し、 「設定の山」に埋もれてしまいます。ポスター広告でも、情報量が多いほど一瞬目に入っただけで「お腹いっぱい」ってなりますよね。必要な情報は、主人公がそれを使うときやそれについて疑問を持ったときに、自然な会話やモノローグで提示するのがおすすめです。
「リグレットゲージ」も設定をすごく細かくしたので、最初から全部説明しても読者の頭には入りません。そこで、プロローグでは「この物語の世界にはリグレットゲージというものがあるんですよ!」という「チラ見せ」程度にとどめています。プロローグ終了後から、案内人との会話形式で「主人公に何が起きたのか」「リグレットゲージとは何か」ということが解き明かされ、その後も主人公の体験によって「リグレットゲージ」にまつわる様々なことがわかっていきます。複雑な設定を明かすときは特に、登場人物の反応をセットにすると情報番組の「ワイプ」のような役割をもってくれて、「読者にどんな反応をしてほしいか」をこっそり示すこともでき、物語の世界観に入り込みやすくなります。
導入部分は「読者への約束」 #
物語における導入部分は、読者との「この物語は面白い、読む価値がある」という約束を交わす場所だと思います。そのためにも、「この商品は買う価値がある」と謳う広告の手法は有効です。もし、広告を見て実際に購入したとか、気に入った広告があれば、それがどういう要素でできていて、どのような効果をもたらすのかを考えてみることが一番勉強になります。
今回紹介した「物語のはじまり」を参考に、読者を決して逃がさない物語を執筆していきませんか?