第4話 親友
目次
前回までのあらすじ #
自身の人生における全ての後悔が詰まったリグレットゲージが上限を超え、人生の選択を迫られた大樹。人生の終わりが迫る極限で選んだのは、記憶を持って生まれたばかりの0歳に戻る「リグレットゲージの逆回転」。大樹は「後悔ばかりの人生をやり直す」ことを決意したのだった。
再び人生を歩み始めた、“まだ幼い”大樹は、過去の人生の記憶を活用して早速後悔のない行動を選択していく。
初めはもう一つある記憶を理解できなかった大樹も6歳になれば「今回の人生では絶対に後悔なんてしない」と決意を新たにする。首にかけているリグレットゲージはもちろん見えていないのだが、それでも軽いような気がしているのだった。
第4話 親友 #
小学6年生 #
元ある記憶では、小学校の6年間はとにかく長くて永遠に子供でいるかのように感じたものだが、実際やり直してみると思ってたよりも短いものだった。
道を往復するときに帰りがやたら短くあっという間に感じる帰路効果みたいなもので、一度経験してるからゴールまでの距離や、そこまで大体何が存在しているかわかってることが原因なのかもしれない。
小学校6年生になった大樹がここまでの道のりで何のリグレットをなかったものにしたかと言えば、「あの日は寄り道しないで帰ったほうが良かった」とか、「遠足のバスの席は一番後ろじゃなく少し真ん中よりが楽しそうだった」とか、「学芸会で違う役のほうがセリフがかっこよかった」とか。他にもいろいろあったけど、全部この程度のものだ。それでも前回コツコツと貯めてしまったリグレットが、まだ今回は空に近い。
それと、前回の人生ではあまりにひどいテストの点数を晒されてクラスの女の子たちにも笑われるし、翔にだって「俺が教えてやるよ」なんて笑われてしまったけど、前の記憶がある分勉強はできている。だから、そういう後悔もない。この前のテストだって大樹は100点を取って、96点の翔に「おまえやっぱすげえな」と言わせたのだった。
運動会 #
さて、そろそろ小学校最後の運動会がある。と言っても体育がそんなに得意なわけじゃないし、目立つのも苦手な大樹は、それが楽しみなわけではなかった。6年生は組体操をするのだが、小柄な大樹はどの技でも持ち上げられてばかりで、どうしても視線を浴びているような感じがして嫌だった。
その日はいよいよプログラムの最後にある大技を練習しようとしていた。男子だけでつくる4段タワーだ。記憶の通り、翔が駆け寄ってきた。「大樹、おまえ高いとこだめだろ、大丈夫か?」大樹はタワーのてっぺん、人と人が重なっていく不安定な一番上の場所で何にも掴まらずに立たなければならない。小柄ではあるが背の順は5番目なのでタワーの見栄えを理由に選ばれてしまったのだった。
「高いとこは確かに怖くてだめだ。」大樹は、視線を遠くにしたまま答えた。「目立つのも嫌だし、バランスも取れなくて落ちるかもしれない。」後悔の記憶の中では、今にも泣きそうになり声を震わせながら言っていた。
運動会での後悔のはじまり #
「だろ、他にやりたいやついるかもしれないし、代わってもらおうよ。」翔は大樹の肩をバンッと叩くと、みんなのほうを向いて叫んだ。「タワーのてっぺん、誰かやる?大樹よりもっと背高いやつがやってさ、すごいデカいやつ作ろうぜ。」
「いいなそれ。誰行く?」これから大技の練習とあって緊張していたクラスメイトたちも一斉に盛り上がった。翔の一声でこうも空気が変わった。
「翔は?」盛り上がる中で1人がそう言うと、だんだん翔がやるという空気になっていった。「俺はいいけど、みんな大丈夫なの?」翔なら運動神経もいいからきっとバランスよく立ち上がれるだろう。背も高いから、立派なタワーになるはずだ。けど、少しぽっちゃりしていてガタイがよかった。たぶん、いや絶対に重い。
とりあえずやってみることになった。大樹はタワーには参加せず、本番では2〜3人でできる技でタワーの麓を飾るのだが、今日は練習なのでタワーが出来上がる様子を外野から見守っていた。
セットが終わり、全員がしゃがんでいる。ここから、まずは1段目がゆっくり立ち上がった。次に2段目となるのだが、なかなか立ち上がらない。緊張感に包まれる中、「せーのっ」という声で片側だけが上がりそうになる。「ストップストップ!」と食い気味に叫ぶ外野の声で2段目全員がまたしゃがんだ状態になる。
「一旦止めよう。」先生の声で1段目もゆっくり下がっていき、タワーは安全に解体された。「やっぱり上が重いとだめなのかな?」誰かが言ったが「どうだろうね。でも、特にまだ2段目なら一番上の重さはその人数分で分散されてるはずだよ。せっかく全員で決めたんだし、少し休んだらもう一度やってみよう。」
失敗と責任 #
2回目もだめで、3回目のタワーの組み立てに入った。すでに1番下の段と2段目はメンバーの入れ替えなどをしてみていた。すると、順調に立ち上がっていき、ついに翔が乗る3段目が立ち上がろうとした。「せーのっ」という声ですでに立ち上がっていた2段目が崩れ、十何人の男子生徒が一瞬ですべて崩れ落ち、まばらに重なっている。
「痛い!」「大丈夫か」「おい蹴るなよ」いろんな声が聞こえ、順々に立ち上がってその場を離れていくと翔が最後まで残っていた。さっきまでタワーの中にいた1人が手を差し伸べると「ちょっと、保健室…」と、笑ってみせようとする中に苦痛を浮かべた。
大樹は呆然と突っ立っていた。その日、翔は学校を早退したのだが、親友の翔が足に怪我をしたことを大樹は家に帰って母から聞かされた。
「自分がタワーの一番上をやっていればこんなことにはならなかった。」と後悔した大樹は翌朝から毎日翔の家に寄っては2つランドセルを背負って一緒に学校に行った。教室移動のときも荷物は2人分、給食は2回もらいに行き、お昼休みになっても外へは行かず、2人で教室の中で過ごした。学校が終わればまたランドセルを2つ持って翔の家に寄り、一旦自分の家に帰るとゲームを持って翔の家に戻り、2人で遊んでいた。
それでも、運動会本番は翔はずっと見学で、アンカーだったはずの翔が欠けたリレーチームはビリになってしまった。あれもこれも、大樹は全部自分に責任があると、後悔をしていた。
親友とのやり直し #
というのも前の人生での記憶だから、今回は同じことをしてはならないと決意に満ちた目を翔に向けていた。「高いとこは確かに怖くてだめだ。目立つのも嫌だし、バランスも取れなくて落ちるかもしれない。」翔は、大樹のその目を見て、ただ頷いた。
「でも、これは俺が任された役目なんだ。怖くても、目立つのが嫌でも、やらなくちゃいけない。落ちるかもしれなくても、俺がチャレンジするべきなんだ。」大樹の声は、もう震えてなんかいなかった。
「ごめん、余計なこと言おうとしてた。大樹はそういうやつだもんな、頑張れよ!」翔は興奮ぎみに肩をバンバン叩いた。