prologue オレの記憶
本編
きっかけ
こんな頻度で実家に戻るようになったのは、四年前からだった。と言っても半年に一回とか、そんなもんだ。自宅からは電車で一時間もかからないけど、帰る理由も特にない。
実家に来れば、子供の頃使っていた部屋を少しずつ整理していた。
今回は、学習机のあたりに着手することにした。最も、上の棚はすでに母の本棚へと様変わりしているし、天板には食器類の入った段ボールが乗っていた。机を買ってもらったときにはキャラクターのマットを敷いていたけど、それももうない。そもそも自分がこの机を使っていたときでさえ最後まで敷いてなかったような気もする。
見つけた記憶の断片
だから、片付けるのは引き出しの中だけだった。 なんとなく2段目から開けてみると、中学時代に受けた模試の結果が、端がよれた状態で覆い被さっていた。 確かに、中学校の途中で机が窮屈になってきて、ここで勉強することもなくなっていったような覚えがあった。引き出しの中身は増やすことはあっても、減らす機会がなかった。
無造作に突っ込まれたプリント類をすべてめくると、平成の初期を覗き込んだようなものだった。 そこには、友達に返し忘れた漫画もゲームソフトもある。 それを取り出すと、下には、まだほとんど使っていなくて長いままの鉛筆が数本あった。転がしてバトルができるタイプのもので、せっかく買ってもらったのに学校で禁止されてしまったのだった。 まだまだ出てくる。今となっては何を開けられるんだかわからない鍵も。昭和と刻印された硬貨も。1番の宝物だったはずのレアカードやキラシールも。 中身を整理しやすいようにと引き出しを取り外すと、色褪せたくしゃくしゃの紙が奥に追いやられていた。
手書きの、落書きのような地図だ。
地図の中身
いくつも折り重なる山々。 川の外側にある2つの黒丸。 大きな木の横にある×印… そのひとつひとつに、なつかしい夏の匂いを覚える。
しかし、その匂いに浸る間もなくポケットからスマホを取り出すと、地図に大きく書かれたその「まち」の名を早速入力する。 地図アプリだけではなく、ブラウザもSNSも手当たり次第に検索してみる。 それでも、結局「まち」に関する情報は一切出てこなかった。
—約30年前にオレたちがたどり着いた「まち」は、確かに存在していたはずなのに。